鯵坂税理士事務所社福経理
会計基準

社会福祉法人の会計基準とは?一般企業との違いをわかりやすく解説

鯵坂 健太郎鯵坂税理士事務所 代表税理士
税理士。社会福祉法人の監事・理事を務め、保育園を経営。

社会福祉法人会計基準とは

社会福祉法人会計基準とは、社会福祉法人が会計処理を行う際に従うべきルールを定めた厚生労働省令です。正式名称は「社会福祉法人会計基準(平成28年厚生労働省令第79号)」といいます。

その根拠は社会福祉法第45条の23にあります。同条では「社会福祉法人は、厚生労働省令で定める基準に従い、会計処理を行わなければならない」と定められており、すべての社会福祉法人はこの会計基準に従う義務があります。

社会福祉法人会計基準は全4章で構成されています。

  • 第1章 総則 --- 会計の基本原則や金額表示のルール
  • 第2章 会計帳簿 --- 資産・負債・純資産の評価方法
  • 第3章 計算関係書類 --- 資金収支計算書・事業活動計算書・貸借対照表の作成ルール
  • 第4章 財産目録 --- 財産目録の内容・区分・様式

また、会計基準第2条では以下の4つの会計原則が示されています。

  1. 真実性の原則 --- 資金収支や純資産の増減、資産・負債・純資産の状態に関する真実な内容を明瞭に表示すること
  2. 正規の簿記の原則 --- 正しく記帳された会計帳簿に基づいて計算書類を作成すること
  3. 継続性の原則 --- 会計処理の原則や手続、表示方法を毎年度継続して適用し、みだりに変更しないこと
  4. 重要性の原則 --- 重要性の乏しいものについては、簡便な方法によることができること

これらは一般企業の会計で馴染みのある原則と共通する部分もありますが、社会福祉法人特有の事情を反映した内容になっています。

一般企業の会計基準との違い

社会福祉法人会計基準と一般企業が従う企業会計基準には、いくつかの大きな違いがあります。以下の表で主な相違点を整理します。

比較項目社会福祉法人会計基準企業会計基準
目的事業の継続性・安定性、資金の使途を明らかにする投資家への情報提供、利益の算定
主な計算書類資金収支計算書・事業活動計算書・貸借対照表損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書
利益の概念「次期繰越活動増減差額」(利益配分は不可)「当期純利益」(株主への配当が可能)
資金管理資金収支計算書で「支払資金」の増減を管理キャッシュフロー計算書で現金の流れを表示
会計区分事業区分・拠点区分・サービス区分の3階層原則としてセグメント情報で開示
会計年度4月1日から翌年3月31日(法定)法人が自由に設定可能
仕訳の特徴一取引二仕訳(資金収支と事業活動の両方に記録)一取引一仕訳が基本

最も大きな違いは、社会福祉法人では「資金収支計算書」が必要な点です。社会福祉法人は公的な補助金や介護報酬などを財源とするため、お金がどこから入り、何に使われたかを明確にする必要があります。また、社会福祉法人は非営利法人であるため、「利益」ではなく「活動増減差額」という表現を用います。

さらに、社会福祉法人特有の仕組みとして「一取引二仕訳」があります。たとえば備品を購入した場合、事業活動計算書に費用を計上する仕訳と、資金収支計算書に支出を計上する仕訳の2つを起こす必要があります。この点が、企業会計に慣れた経理担当者がまず戸惑うポイントです。

社会福祉法人会計基準で求められる計算書類

社会福祉法人会計基準では、3つの主要な計算書類の作成が求められます。

3つの計算書類それぞれの読み方・作り方と、決算スケジュールについては、社会福祉法人の決算書の読み方・作り方で詳しく解説しています。

資金収支計算書

資金収支計算書は、会計基準第12条で「当該会計年度における全ての支払資金の増加及び減少の状況を明瞭に表示するもの」と定められています。

支払資金とは、流動資産から流動負債を差し引いた金額のことです。社会福祉法人は公費を財源とする事業が多いため、「集めたお金をきちんと事業のために使っているか」を示す書類として重要な役割を果たします。

資金収支計算書は、事業活動による収支・施設整備等による収支・その他の活動による収支の3つの区分に分けて表示します。企業会計のキャッシュフロー計算書と似た役割ですが、対象となる「資金」の定義が異なる点に注意が必要です。

事業活動計算書

事業活動計算書は、会計基準第19条で「当該会計年度における全ての純資産の増減の内容を明瞭に表示するもの」と定められています。

企業会計の損益計算書に相当する書類ですが、「利益」ではなく「活動増減差額」を計算する点が異なります。サービス活動増減の部・サービス活動外増減の部・特別増減の部・繰越活動増減差額の部に区分して、1年間の事業活動の成果を表示します。

貸借対照表

貸借対照表は、会計基準第25条で「当該会計年度末現在における全ての資産、負債及び純資産の状態を明瞭に表示するもの」と定められています。

基本的な構造は企業会計と同様に資産・負債・純資産で構成されますが、純資産の部に「基本金」や「国庫補助金等特別積立金」といった社会福祉法人特有の項目が含まれます。基本金は社会福祉法人の設立や施設の創設に充てた寄附金などを計上するもので、株式会社の資本金とは性質が異なります。

拠点区分ごとの経理とは

社会福祉法人会計基準の大きな特徴の一つが、会計の区分です。会計基準第10条では「社会福祉法人は、計算書類の作成に関して、事業区分及び拠点区分を設けなければならない」と定められています。

具体的には、以下の3階層で会計を管理します。

  • 事業区分 --- 社会福祉事業・公益事業・収益事業の3区分
  • 拠点区分 --- 事業を行う施設や事業所ごとの区分(例:特別養護老人ホームA、保育所Bなど)
  • サービス区分 --- 拠点の中で行われる個々のサービスごとの区分

それぞれの拠点区分ごとに資金収支計算書・事業活動計算書・貸借対照表を作成し、さらに法人全体の合算書類も作成する必要があります。会計基準第7条の2では、法人単位の計算書類に加えて内訳表や事業区分別内訳表の作成も求められています。ただし、事業区分が社会福祉事業のみの場合や拠点区分が一つの場合は、一部の内訳表を省略できます。

複数の施設を運営する法人では、拠点ごとの計算書類の作成と法人全体の集約が業務負担の大きな部分を占めます。拠点間の内部取引の相殺消去なども正確に処理する必要があり、経理の実務では特に注意が必要な領域です。

会計基準に沿った経理体制を整えるポイント

社会福祉法人会計基準に対応した経理体制を整えるうえで、実務上つまずきやすい点を挙げます。

会計ソフトが社会福祉法人会計に対応しているか確認する

一般企業向けの会計ソフトでは、一取引二仕訳や拠点区分ごとの管理に対応できないことがあります。

とくに注意が必要なのは減価償却です。社会福祉法人では、国庫補助金等特別積立金の取崩しを減価償却費に対応させて計上する必要があります。汎用のクラウド会計だけでは処理しきれず、社会福祉法人用の減価償却システムを別途導入している法人もあります。

導入前に、次の3点を確認してください。

  • 事業区分・拠点区分・サービス区分の3階層で仕訳を入力・集計できるか
  • 資金収支計算書と事業活動計算書を同時に出力できるか(一取引二仕訳への対応)
  • 国庫補助金等特別積立金の取崩しを、減価償却費に対応させて計上できるか

支払資金の対象科目を正しく設定する

会計基準第13条により、支払資金は流動資産・流動負債から、1年内振替分(経常的な取引以外のもの)・引当金・棚卸資産(貯蔵品を除く)を除いたものとされています。

会計ソフト側で「支払資金の対象/対象外」を科目ごとに設定しますが、ここを1科目でも誤ると、資金収支計算書の当期末支払資金残高が貸借対照表と一致しません。預り金や仮払金など、判断に迷う科目は設定時に確認してください。

勘定科目体系を正しく設定する

社会福祉法人会計基準では、大区分・中区分・小区分の勘定科目が省令で定められています。法人独自の科目を設定する場合も、省令で定められた体系に沿って適切に位置づける必要があります。

科目体系の全体像と、実務でよくある仕訳パターンは社会福祉法人の勘定科目一覧と仕訳のポイントにまとめています。

月次で確認すべきは「拠点間の内部取引」

決算時にまとめて処理しようとすると、拠点間の内部取引の消去漏れや区分の誤りが発見しにくくなります。

特に多いのが拠点区分間繰入金です。本部から拠点へ資金を繰り入れた場合、拠点区分別の計算書類には計上されますが、法人全体の計算書類では相殺消去されます。この消去が漏れると、法人全体の収益・費用が両建てで膨らみます。

月次で各拠点の試算表を確認し、内部取引の残高が両側で一致しているかを見てください。

附属明細書は19種類ある

計算書類の3表だけでなく、附属明細書と財産目録の作成も求められます。附属明細書は会計基準第30条第1項により19種類あり、うち第1号〜第7号は法人全体について、第8号〜第19号は拠点区分ごとに作成します。

固定資産の取得・処分が多い法人では、期中から台帳を整備しておくと決算期の負担が軽くなります。詳細は決算書の読み方・作り方で解説しています。

6月30日から逆算してスケジュールを立てる

計算書類は、毎会計年度終了後3か月以内に作成し、監事監査 → 理事会の承認 → 定時評議員会の承認を経て、所轄庁に届け出ます(法第45条の27第2項、第45条の28)。

この順序は動かせません。6月30日の期限から逆算すると、監事監査は5月中に終えている必要があり、計算書類は4月中に固まっていなければなりません。会議の日程については理事会と評議員会の違いを参照してください。

まとめ

社会福祉法人会計基準について、要点を整理します。

  • 会計基準は社会福祉法第45条の23に基づく厚生労働省令であり、すべての社会福祉法人に適用される
  • 真実性・正規の簿記・継続性・重要性の4つの会計原則が定められている(会計基準第2条)
  • 計算書類は資金収支計算書・事業活動計算書・貸借対照表の3つ
  • 一般企業会計との最大の違いは、資金収支計算書の存在、一取引二仕訳、そして事業区分・拠点区分・サービス区分の3階層の会計区分
  • 利益ではなく「活動増減差額」を用い、配分はできない
  • 純資産の部に基本金国庫補助金等特別積立金という独自の科目がある
  • 計算書類の作成期限は6月30日。監事監査 → 理事会 → 定時評議員会の順序は動かせない

企業会計の経験だけでは対応が難しい場面が少なくありません。特に複数拠点を運営する法人では、拠点区分ごとの計算書類の作成と内部取引の消去が負担になります。


社会福祉法人の経理業務でお悩みの場合は、鯵坂税理士事務所にご相談ください。日々の仕訳入力から計算書類の作成、監事監査・指導監査への対応までサポートいたします。

この記事で引用した法令

  • 社会福祉法(昭和26年法律第45号)第45条の23、第45条の27、第45条の28 — e-Gov法令検索
  • 社会福祉法人会計基準(平成28年厚生労働省令第79号)第2条、第6条、第7条の2、第10条、第12条、第13条、第19条、第25条、第30条 — e-Gov法令検索

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