社会福祉法人の決算書の読み方・作り方|3つの計算書類を徹底解説
社会福祉法人の決算書は、一般企業の財務諸表とは異なる独自の体系を持っています。資金収支計算書・事業活動計算書・貸借対照表の3つが柱で、これに附属明細書・財産目録・注記が加わります。
作成期限は、社会福祉法第45条の27第2項により毎会計年度終了後3か月以内、つまり6月30日です。
この記事では、3つの計算書類の役割、経営状態を読み取るための指標、三表の整合性チェック、そして決算スケジュールまでを整理します。
社会福祉法人の決算書とは?必要な書類の全体像
社会福祉法人が作成すべき計算書類は、次の3種類です。
| 計算書類 | 何を示すか | 一般企業でいえば |
|---|---|---|
| 資金収支計算書 | 支払資金の増減 | キャッシュ・フロー計算書 |
| 事業活動計算書 | 純資産の増減(活動増減差額) | 損益計算書 |
| 貸借対照表 | 決算日時点の財産の状態 | 貸借対照表 |
これに加えて、附属明細書、財産目録、事業報告の作成も必要です(法第45条の27第2項、第45条の34第1項)。
計算書類の前提となる会計基準の全体像や、一般企業会計との違いについては、社会福祉法人の会計基準とは?をご覧ください。各計算書類に計上する勘定科目は勘定科目一覧で確認できます。
また、社会福祉法人会計基準(第7条の2)では、計算書類を法人単位・事業区分別・拠点区分別の階層で作成するよう定めています。ただし、事業区分が社会福祉事業のみの場合や、拠点区分が1つの場合には、一部の内訳表を省略できます。
資金収支計算書の読み方と作成ポイント
資金収支計算書は、会計基準第12条において「当該会計年度における全ての支払資金の増加及び減少の状況を明瞭に表示するもの」と定められています。
「支払資金」の範囲に注意
企業会計のキャッシュ・フロー計算書と似ていますが、対象となる「支払資金」の範囲が独特です。会計基準第13条を正確に読みます。
支払資金は、流動資産及び流動負債(経常的な取引以外の取引によって生じた債権又は債務のうち貸借対照表日の翌日から起算して一年以内に入金又は支払の期限が到来するものとして固定資産又は固定負債から振り替えられた流動資産又は流動負債、引当金及び棚卸資産(貯蔵品を除く。)を除く。)とし、支払資金残高は、当該流動資産と流動負債との差額とする。
つまり、流動資産・流動負債から次の3つを除いたものが支払資金です。
| 除外されるもの | 具体例 |
|---|---|
| 1年以内に固定資産・固定負債から振り替えられた流動資産・流動負債(経常的な取引以外のもの) | 1年以内返済予定の設備資金借入金、1年以内回収予定の長期貸付金 |
| 引当金 | 賞与引当金、徴収不能引当金 |
| 棚卸資産(貯蔵品を除く) | 商品、製品、原材料 |
貯蔵品だけは支払資金に含まれます。この点を取り違えると、資金収支計算書と貸借対照表の残高が合いません。
3つの区分
資金収支計算書は、次の3区分で表示します(会計基準第15条)。
- 事業活動による収支 — 介護報酬・措置費・保育事業収入など、日常の事業運営に関わる収支
- 施設整備等による収支 — 建物の取得・売却、施設整備補助金などの収支
- その他の活動による収支 — 積立資産の積立・取崩し、借入金の借入・返済など
読み方のポイント
事業活動資金収支差額がプラスかどうかが最初の関門です。ここがマイナスなら、日常の事業運営だけで資金が減っていることを意味します。
そして最終行の当期末支払資金残高は、貸借対照表から計算した支払資金の額と一致しなければなりません。
事業活動計算書の読み方と作成ポイント
事業活動計算書は、会計基準第19条で「当該会計年度における全ての純資産の増減の内容を明瞭に表示するもの」と規定されています。企業会計の損益計算書に相当しますが、「利益」ではなく「活動増減差額」で表現します。
4つの区分
事業活動計算書は、次の4つに区分されます(会計基準第21条)。
| 区分 | 内容 | 差額の名称 |
|---|---|---|
| サービス活動増減の部 | 本業の収益(介護報酬等)と費用(人件費・事業費・事務費・減価償却費等) | サービス活動増減差額 |
| サービス活動外増減の部 | 借入金利息、受取利息配当金、有価証券評価損益など | 経常増減差額 |
| 特別増減の部 | 施設整備等補助金収益、固定資産売却損益、基本金組入額など | 当期活動増減差額 |
| 繰越活動増減差額の部 | 前期繰越活動増減差額との合計、基本金取崩額、その他の積立金の積立・取崩 | 次期繰越活動増減差額 |
読み方のポイント
見るべき順序があります。
- サービス活動増減差額 — 本業で稼げているか
- 経常増減差額 — 借入金利息などを含めても黒字か
- 当期活動増減差額 — 補助金や固定資産売却などの特別要因を含めた最終結果
サービス活動増減差額がマイナスなのに当期活動増減差額がプラスの場合、施設整備補助金や固定資産売却益で埋めている状態です。翌年度以降も同じ補填が続く保証はありません。
貸借対照表の読み方と作成ポイント
貸借対照表は、会計基準第25条で「当該会計年度末現在における全ての資産、負債及び純資産の状態を明瞭に表示するもの」と定められています。
純資産の部が一般企業と大きく異なります
| 純資産の科目 | 内容 |
|---|---|
| 基本金 | 社会福祉法人の設立・施設の創設等に充てた寄附金の額(会計基準第6条第1項) |
| 国庫補助金等特別積立金 | 施設・設備の整備のために受領した補助金等の額(同条第2項) |
| その他の積立金 | 理事会の議決に基づき積み立てた額(同条第3項) |
| 次期繰越活動増減差額 | 一般企業の繰越利益剰余金に相当 |
国庫補助金等特別積立金の取崩しは、事業活動計算書と連動します
補助金で取得した固定資産は、減価償却によって毎期費用が計上されます。一方、その補助金相当額は純資産の「国庫補助金等特別積立金」に計上されています。
そこで、減価償却費の計上にあわせて特別積立金を取り崩し、事業活動計算書のサービス活動費用から控除します。この処理により、補助金で取得した部分の減価償却費が、実質的にサービス活動増減差額に影響しない仕組みになっています。
貸借対照表の国庫補助金等特別積立金が毎期減っているのは、この取崩しによるものです。
決算書からわかる経営指標
「決算書を読む」とは、数字から経営状態を判断することです。社会福祉法人でよく用いられる指標を挙げます。
| 指標 | 計算式 | 何を見るか |
|---|---|---|
| サービス活動増減差額率 | サービス活動増減差額 ÷ サービス活動収益 | 本業でどれだけ利益が出ているか |
| 経常増減差額率 | 経常増減差額 ÷(サービス活動収益+サービス活動外収益) | 借入金利息等を含めた収益性 |
| 人件費率 | 人件費 ÷ サービス活動収益 | 収益に対する人件費の割合 |
| 経費率 | (事業費+事務費)÷ サービス活動収益 | 人件費以外の経費の割合 |
| 純資産比率 | 純資産 ÷ 資産合計 | 財務の安定性 |
| 固定長期適合率 | 固定資産 ÷(純資産+固定負債) | 固定資産を長期の資金でまかなえているか |
| 支払資金残高の月数 | 当期末支払資金残高 ÷(年間サービス活動費用 ÷ 12) | 何か月分の運転資金を保有しているか |
指標は、絶対値ではなく比較で読む
これらの指標は、単独の数値を見ても判断できません。次の3つの比較で読みます。
- 経年比較 — 自法人の過去3〜5年の推移。悪化しているなら原因を特定する
- 同種法人との比較 — 独立行政法人福祉医療機構(WAM)が、施設種別ごとの経営分析参考指標を公表しています
- 予算との比較 — 資金収支計算書には予算欄があります。予算と決算の乖離が大きい場合、予算の精度か期中の管理に問題があります
人件費率は、施設種別によって水準が大きく異なります。特別養護老人ホームと保育所では人員配置基準が違うため、単純に比較できません。同種施設のデータと比べてください。
サービス活動増減差額がマイナスのときに見るべきもの
サービス活動増減差額がマイナスであっても、直ちに資金が枯渇するわけではありません。減価償却費は資金の支出を伴わない費用だからです。
次の順で確認します。
- サービス活動増減差額に減価償却費を足し戻すとプラスになるか — プラスなら、当面の資金は回っている
- 事業活動資金収支差額はプラスか — 資金収支計算書で確認する
- 借入金の元本返済を賄えているか — 元本返済は費用ではないため、事業活動計算書には表れない
- 支払資金残高は何か月分あるか — 上表の計算式で確認する
減価償却費を足し戻してもマイナスであれば、事業構造そのものの見直しが必要です。
三表の整合性チェック
決算作業でもっとも重要なのが、三表の整合性です。次の2つのチェックは必ず行ってください。
| チェック | 内容 |
|---|---|
| ① 支払資金残高の一致 | 資金収支計算書の当期末支払資金残高 = 貸借対照表の流動資産 − 流動負債(会計基準第13条の除外項目を除く) |
| ② 活動増減差額の一致 | 事業活動計算書の次期繰越活動増減差額 = 貸借対照表の純資産の部の次期繰越活動増減差額 |
さらに、財産目録と貸借対照表の照合も必要です。
財産目録の資産合計は、貸借対照表の資産合計と一致します。この2つがずれている決算書は珍しくありません。減価償却累計額を記入する欄に取得価額を入れてしまい、建物・構築物・器具備品の簿価がすべてゼロで表示されていた、という例もあります。
計算書類と会計帳簿の不整合や、財産目録と貸借対照表の資産合計の不一致は、所轄庁の指導監査でよくある指摘事項にあたります。決算のたびに突き合わせておくことが確実な備えになります。
附属明細書・財産目録・注記
計算書類の本表だけでは決算は完了しません。
附属明細書は19種類あります
会計基準第30条第1項は、附属明細書を19種類列挙しています。作成単位が2つに分かれる点に注意が必要です。
法人全体について作成するもの(第1号〜第7号)
- 借入金明細書
- 寄附金収益明細書
- 補助金事業等収益明細書
- 事業区分間及び拠点区分間繰入金明細書
- 事業区分間及び拠点区分間貸付金(借入金)残高明細書
- 基本金明細書
- 国庫補助金等特別積立金明細書
拠点区分ごとに作成するもの(第8号〜第19号)
- 基本財産及びその他の固定資産(有形・無形固定資産)の明細書
- 引当金明細書
- 拠点区分資金収支明細書
- 拠点区分事業活動明細書
- 積立金・積立資産明細書
- サービス区分間繰入金明細書
- サービス区分間貸付金(借入金)残高明細書
- 就労支援事業別事業活動明細書
- 就労支援事業製造原価明細書
- 就労支援事業販管費明細書
- 就労支援事業明細書
- 授産事業費用明細書
なお、会計基準第30条第3項により、厚生労働省社会・援護局長が定めるところにより、附属明細書の作成を省略できる場合があります。就労支援事業を行っていない法人が第15号〜第18号を作成する必要はありません。
財産目録
財産目録は、法第45条の34第1項により、毎会計年度終了後3か月以内に作成し、5年間主たる事務所に備え置かなければなりません。
そして同条第3項は、次のように定めています。
何人も、社会福祉法人の業務時間内は、いつでも、財産目録等について、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該社会福祉法人は、正当な理由がないのにこれを拒んではならない。
財産目録は、利害関係者に限らず誰でも閲覧を請求できる書類です。法人は正当な理由なくこれを拒めません。
注記
計算書類の注記は、会計基準第29条第1項に基づき、法人全体について16項目を記載します。主なものは次のとおりです。
- 継続事業の前提に関する事項(第1号)
- 資産の評価基準・評価方法、固定資産の減価償却方法、引当金の計上基準等の重要な会計方針(第2号)
- 重要な会計方針を変更した場合の、その旨・理由・影響額(第3号)
- 基本財産の増減の内容及び金額(第6号)
- 基本金または固定資産の売却・処分に係る国庫補助金等特別積立金の取崩しを行った場合の、その旨・理由・金額(第7号)
- 担保に供している資産に関する事項(第8号)
- 固定資産について減価償却累計額を直接控除した残額のみを記載した場合の、取得価額・減価償却累計額・当期末残高(第9号)
- 関連当事者との取引の内容に関する事項(第12号)
- 重要な偶発債務(第13号)、重要な後発事象(第14号)
「関連当事者」の範囲は条文で定義されています(第29条第2項)。常勤の役員または評議員として報酬を受けている者、その近親者、これらの者が議決権の過半数を有する法人、支配法人・被支配法人などです。理事長が経営する会社との取引は、この注記の対象になります。
また、第29条第4項により、拠点区分ごとにも第2号〜第11号、第14号、第16号の注記が必要です。ただし拠点区分の数が1つの法人は、拠点区分ごとの注記を省略できます。
指導監査ガイドラインでは、法令で定められた注記事項が記載されているか、該当のない注記事項について「該当なし」と記載しているかが確認されます。空欄のままにせず「該当なし」と記載するのが実務上の取扱いです。
決算スケジュールと注意点(いつまでに何をするか)
社会福祉法人の会計年度は4月1日から翌年3月31日です。年度末からの流れは次のとおりです。
| 時期 | やるべきこと |
|---|---|
| 3月末 | 会計年度の締め、棚卸・残高確認、補正予算の理事会承認(年度内に) |
| 4月〜5月上旬 | 計算書類・附属明細書・財産目録・事業報告の作成 |
| 5月中 | 監事による監査(法第45条の28第1項) |
| 5月下旬〜6月上旬 | 理事会での計算書類の承認(法第45条の28第3項)、評議員会の招集決定 |
| 6月中 | 定時評議員会での承認 |
| 6月30日まで | 所轄庁への届出、資産総額の変更登記 |
| 届出後 | 財務諸表等電子開示システムを通じた公表 |
理事会・評議員会の招集手続や決議要件については、社会福祉法人の理事会と評議員会の違いで解説しています。
補正予算は年度内に承認する
資金収支計算書には予算欄があります。この予算欄には最終補正予算額を記載します。
補正予算の理事会承認が年度明けに行われていると、予算欄と承認済みの予算額が一致せず、指導監査で指摘の対象になります。予算は事前統制の仕組みであるため、補正予算は年度内(2月〜3月)に承認しておく必要があります。
決算後に待つ社会福祉充実残額の算定
決算書を作成して届け出れば終わり、ではありません。
社会福祉法第55条の2第1項は、次のように定めています。
社会福祉法人は、毎会計年度において、第一号に掲げる額が第二号に掲げる額を超えるときは、厚生労働省令で定めるところにより、…社会福祉充実計画…を作成し、これを所轄庁に提出して、その承認を受けなければならない。 一 当該会計年度の前会計年度に係る貸借対照表の資産の部に計上した額から負債の部に計上した額を控除して得た額 二 基準日において現に行つている事業を継続するために必要な財産の額として厚生労働省令で定めるところにより算定した額
第1号は純資産の額(資産 − 負債)、第2号は事業の継続に必要な財産の額です。この超過額が社会福祉充実残額であり、残額が生じた場合には社会福祉充実計画を作成して所轄庁の承認を受けなければなりません。
充実残額の算定は、貸借対照表の数値から出発します。控除対象財産の判定では、現に社会福祉事業等の用に供している土地・建物・設備は控除対象となる一方、現金や貸付金は原則として控除対象にならない、といった区別があります。
決算書の作成は、この算定の入口です。基本財産とその他の固定資産の区分、積立資産の積立目的、固定資産の使用実態が、そのまま充実残額の計算に効いてきます。
算定方法、控除対象財産の判定、充実計画の手続、そして充実残額が生じるのが全法人の7.9%にとどまる理由については、社会福祉充実残額とはで解説しています。
まとめ
社会福祉法人の決算書について、要点を整理します。
- 計算書類は資金収支計算書・事業活動計算書・貸借対照表の3つ。これに附属明細書・財産目録・事業報告が加わる
- 支払資金の範囲は、流動資産・流動負債から1年内振替分(経常的な取引以外のもの)・引当金・棚卸資産(貯蔵品を除く)を除いたもの(会計基準第13条)
- 事業活動計算書は、サービス活動増減差額 → 経常増減差額 → 当期活動増減差額の順に読む
- 経営指標は絶対値ではなく、経年比較・同種法人との比較・予算との比較で読む
- 三表の整合性チェックは2つ。支払資金残高の一致と次期繰越活動増減差額の一致
- 財産目録の資産合計は貸借対照表の資産合計と一致する。財産目録は誰でも閲覧を請求できる
- 附属明細書は19種類。うち7種類は法人全体、12種類は拠点区分ごとに作成する
- 補正予算は年度内に理事会の承認を得る
- 決算後には社会福祉充実残額の算定が待っている
決算は6月30日までに完了させる必要があり、監事監査や評議員会の日程を含めると、実質的な作業期間は2〜3か月です。月次での残高確認と、三表の整合性チェックを習慣化することで、決算時の負担を大きく減らせます。
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この記事で引用した法令
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