社会福祉充実残額とは|算定方法と、生じる法人が7.9%の理由
社会福祉法人は、毎会計年度、社会福祉充実残額を算定しなければなりません。残額が生じた場合は社会福祉充実計画を策定し、所轄庁の承認を受ける必要があります。
ただし、実際に残額が生じている法人は多くありません。厚生労働省の集計によれば、全国21,086法人のうち1,664法人(7.9%)です。13法人に1法人ほどの割合になります。
この記事では、なぜ多くの法人では残額が生じないのかを算定式から説明したうえで、判定を誤りやすい論点と、残額が生じた場合の手続を整理します。
社会福祉充実残額とは
根拠は社会福祉法第55条の2第1項です。
社会福祉法人は、毎会計年度において、第一号に掲げる額が第二号に掲げる額を超えるときは、厚生労働省令で定めるところにより、…社会福祉充実計画…を作成し、これを所轄庁に提出して、その承認を受けなければならない。 一 当該会計年度の前会計年度に係る貸借対照表の資産の部に計上した額から負債の部に計上した額を控除して得た額 二 基準日において現に行つている事業を継続するために必要な財産の額として厚生労働省令で定めるところにより算定した額
第1号は純資産の額、第2号は事業の継続に必要な財産の額です。この超過額が社会福祉充実残額にあたります。
なお、厚生労働省の実務資料では「社会福祉充実財産」という語が使われています。法文上の「充実残額」と同じものを指します。
算定は法人単位で行います。施設種別ごとではありません。
充実残額が生じている法人は全国の7.9%
厚生労働省「令和7年度における社会福祉充実計画の状況について」(令和7年10月1日時点 福祉基盤課調べ)に、次の記載があります。
社会福祉充実計画を有する法人は、1,528法人(社会福祉法人総数の7.2%)で、社会福祉充実財産の総額は3,495億円
そして脚注に、計画を作る前段階の数字が示されています。
社会福祉法人の財務諸表等電子開示システムのデータにおいて充実財産が発生した1,664法人から、社会福祉充実計画策定に係る費用が社会福祉充実財産を上回ることが明らかな場合等により、当該計画の策定が不要であることが確認できた110法人を除いた1,554法人
全国の社会福祉法人数は21,086法人(令和6年度福祉行政報告例)です。整理すると次のようになります。
| 区分 | 法人数 | 全法人に対する割合 |
|---|---|---|
| 全国の社会福祉法人 | 21,086 | 100% |
| 充実財産が発生した法人 | 1,664 | 7.9% |
| うち計画策定が不要と確認された法人 | 110 | 0.5% |
| 実際に充実計画を有する法人 | 1,528 | 7.2% |
前年度(令和6年度)は、計画を有する法人が1,623法人(7.7%)、充実財産の総額は3,759億円でした。法人数・総額とも減少しています。
「充実残額が出た法人を見たことがない」という実感は、統計と整合します。顧問先に社会福祉法人が数法人あるだけでは、当たらないほうが自然です。
なぜ多くの法人では生じないのか
理由は、算定の第1ステップにあります。
厚生労働省の局長通知「社会福祉充実計画の承認等について」は、最初の計算をこう定めています。
※ 「活用可能な財産」= Ⓐ − Ⓑ − Ⓒ − Ⓓ なお、この計算の結果が0以下となる場合については、社会福祉充実残額が生じないことが明らかであることから、以降の計算は不要であること。
Ⓐ〜Ⓓは、貸借対照表の次の項目です。
| 記号 | 項目 |
|---|---|
| Ⓐ | 資産の部合計 |
| Ⓑ | 負債の部合計 |
| Ⓒ | 純資産の部の基本金 |
| Ⓓ | 純資産の部の国庫補助金等特別積立金 |
ここが決定的です。施設を保有する社会福祉法人では、建物や設備の取得原資が基本金と国庫補助金等特別積立金に積まれています。この2つは純資産の大部分を占めることが多く、資産 − 負債 から差し引くと0以下になります。
その時点で計算は終わります。控除対象財産の判定にも、再取得に必要な財産の計算にも進みません。
逆に言えば、充実残額が生じやすいのは次のような法人です。
- 施設を保有していない、または保有資産が小さい法人
- 建物の減価償却が進み、基本金・国庫補助金等特別積立金の残高に比べて現預金が厚くなった法人
- 事業に使っていない土地・建物(遊休不動産)を抱える法人
社会福祉充実残額の算定
算定は4つのステップで進みます。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1 | 活用可能な財産を算定する(資産 − 負債 − 基本金 − 国庫補助金等特別積立金)。0以下ならここで終了 |
| 2 | 控除対象財産を算定する。3つの区分がある |
| 3 | 二重控除を排除するため、対応基本金・対応国庫補助金等特別積立金・対応負債を調整する |
| 4 | 活用可能な財産から控除対象財産を差し引く。残った額が社会福祉充実残額 |
控除対象財産の3区分は次のとおりです。
- 社会福祉法に基づく事業に活用している不動産等
- 再取得に必要な財産(将来の建替え・大規模修繕・設備更新に必要な費用)
- 必要な運転資金
なお、活用可能な財産の額が、これらのいずれかを下回ることが明らかな場合、以降の計算を省略できます(Q&A問40)。
計算そのものは「社会福祉充実残額算定シート」に入力すれば自動で行われます。難しいのは計算ではなく、シートに何を入力するかの判定です。
控除対象財産の判定を誤りやすい5点
1. 事業に使っていない土地・建物は、原則として控除対象外
局長通知は次のように定めています。
現に社会福祉事業等に活用していない土地・建物については、原則として控除対象とはならないが、社会福祉充実残額の算定を行う会計年度の翌会計年度に、具体的な活用方策が明らかな場合(翌会計年度中に社会福祉事業等に活用する建物の建設に着工する場合であって、事業開始は翌々会計年度以降となるような場合を含む。)については、この限りではない。
遊休不動産を持っている法人は、ここで控除できず、充実残額が生じる可能性が高まります。翌々会計年度以降に活用する場合は、充実計画に具体的な活用方策を記載することで保有・活用が可能とされています。
2. 基本財産の定期預金・投資有価証券は、設立時に必要とされた額の範囲内のみ
基本財産のうち、土地・建物を除く定期預金及び投資有価証券については、法人設立時に必要とされた基本財産(社会福祉施設等を経営する法人にあっては、100万円又は1,000万円、社会福祉施設等を経営しない法人にあっては、1億円又は所轄庁が認めた額など…)の範囲内で控除対象となる。
基本財産に計上しているからといって、全額が控除対象になるわけではありません。
3. 建物付属設備は「建物」に含め、取得年度は建物の取得年度とする
厚生労働省Q&A(問29)に具体例があります。
社会福祉法人会計基準において、貸借対照表上、「建物」に計上すべき金額は、「建物及び建物付属設備」としているところであり、減価償却累計額の算定に当たっては、建物ごとに、当該建物付属設備を含む金額を計上することとなる。 なお、建物取得年度の記載に当たっては、建物と建物付属設備の取得年度が異なる場合であっても、建物付属設備の取得・更新時期にかかわらず、建物の取得年度とすること。
取得年度は「再取得に必要な財産」の計算に直結します。建設工事費デフレーターを取得年度に応じて乗じるためです。1980年取得の建物に2000年取得の建物付属設備がある場合でも、取得年度は1980年として計上します。
4. 「主として施設・事業所の経営を目的としていない法人等の特例」は、法人の判断
Q&A(問37・問38)により、要件に該当する法人はこの特例の適用を受けられますが、適用を受けないことも法人の判断で可能です。自動的に適用されるものではありません。
5. 補助金・寄付を原資とする積立資産は控除対象
国や自治体からの補助を受け、又は寄付者等の第三者から使途・目的が明確に特定されている寄付等の拠出を受け、設置された積立資産等については、控除対象となる。
一方、法人が自らの判断で積み立てた積立資産は、この規定には当たりません。積立資産の原資と目的を、積立ての時点で明確にしておく必要があります。
なお、充実残額をその他の積立金や積立資産として計上する必要はなく、どのような形で保有するかは法人の裁量とされています(Q&A問39)。
充実残額が生じた場合に何が起きるか
税理士・公認会計士への意見聴取は法定義務
社会福祉法第55条の2第5項です。
社会福祉法人は、社会福祉充実計画の作成に当たつては、事業費及び社会福祉充実残額について、公認会計士、税理士その他財務に関する専門的な知識経験を有する者として厚生労働省令で定める者の意見を聴かなければならない。
「聴くことができる」ではなく「聴かなければならない」と定められています。充実計画を作成する法人にとって、専門家への意見聴取は選択ではなく義務です。
ただし、計画の策定に係る費用が充実残額を上回ることが明らかな場合など、計画の策定自体が不要となる場合には、この意見聴取の義務も生じません(Q&A問7)。前掲の統計で「計画策定が不要と確認された110法人」がこれにあたります。
評議員会の承認が必要
同条第7項です。
社会福祉充実計画は、評議員会の承認を受けなければならない。
理事会の決議だけでは足りません。
充実事業には検討の順序がある
同条第4項は、計画に記載する事業について、検討の順序を定めています。
社会福祉法人は、前項第一号に掲げる事項の記載に当たつては、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる事業の順にその実施について検討し、行う事業を記載しなければならない。 一 社会福祉事業又は公益事業(第二条第四項第四号に掲げる事業に限る。) 二 地域公益事業 三 公益事業(前二号に掲げる事業を除く。)
社会福祉事業 → 地域公益事業 → その他の公益事業の順に検討しなければなりません。順序を飛ばすことはできず、上位の事業を実施しない場合はその理由が問われます。
さらに、地域公益事業を行う計画を作成する場合には、事業区域の住民その他の関係者の意見を聴く必要があります(同条第6項)。
充実財産は実際に何に使われているか
厚生労働省の令和7年度の集計から、使途の内訳を示します。総額3,495億円・3,607事業に対する構成比です。
| 事業内容 | 事業費 | 構成比 |
|---|---|---|
| サービス向上のための既存施設の改築・設備整備 | 1,575億円 | 45.1% |
| 新規事業の実施 | 713億円 | 20.4% |
| 既存事業のサービス内容の充実 | 224億円 | 6.4% |
| 職員給与、一時金の増額 | 180億円 | 5.2% |
| サービス向上のための新たな人材の雇入れ | 168億円 | 4.8% |
| 職員の福利厚生、研修の充実 | 65億円 | 1.9% |
| 既存事業の定員、利用者の拡充 | 52億円 | 1.5% |
事業区分別では、社会福祉事業が97.0%(3,498事業)、地域公益事業が1.9%(67事業)、公益事業が1.2%(42事業)です。
法は社会福祉事業 → 地域公益事業 → その他の公益事業の順に検討することを求めていますが、実際の内訳を見ると、大半は自法人の社会福祉事業、とりわけ既存施設の改築・設備整備に向かっています。
提出期限と提出方法
充実残額の算定結果は、残額が生じなかった法人も含めて提出する必要があります。Q&A(問4)です。
社会福祉充実残額の算定結果については、社会福祉充実残額が生じなかった法人を含め、毎会計年度、6月30日までに、「計算書類」及び「現況報告書」とともに、「社会福祉充実残額算定シート」に必要事項を記入の上、「社会福祉法人の財務諸表等電子開示システム」を利用して入力を行う、又は当該シートを郵送又は電子メール等により送付することにより行うこととなる。
計算書類・現況報告書と同じく、6月30日が期限です。決算のスケジュールについては社会福祉法人の決算書の読み方・作り方を参照してください。
なお、充実残額の計算過程に関する書類(算定シートおよびその別添「財産目録様式」)は、10年間の保存が必要です(Q&A問6)。
まとめ
- 社会福祉充実残額とは、純資産の額が事業の継続に必要な財産の額を超える部分をいう(法第55条の2第1項)。算定は法人単位で行う
- 厚生労働省の集計では、充実財産が生じた法人は全国21,086法人中1,664法人(7.9%)。実際に充実計画を有するのは1,528法人(7.2%)
- 多くの法人で生じないのは、算定の第1ステップ
資産 − 負債 − 基本金 − 国庫補助金等特別積立金が0以下となり、そこで計算が終わるため - 算定シートに入力すれば計算は自動で行われる。難しいのは計算ではなく、控除対象財産の判定
- 判定を誤りやすいのは、遊休不動産、基本財産の定期預金・投資有価証券、建物付属設備の取得年度、特例の適用、積立資産の原資と目的
- 充実残額が生じた場合、公認会計士・税理士等への意見聴取は法定義務(法第55条の2第5項)。評議員会の承認も必要(同条第7項)
- 充実事業は社会福祉事業 → 地域公益事業 → その他の公益事業の順に検討する(同条第4項)
- 算定結果は、残額が生じなかった法人も含め、6月30日までに提出する
充実残額が生じるかどうかは、決算書の作り方で変わります。積立資産をどの目的で積むか、基本財産をどう区分するか、遊休不動産を翌年度にどう活用するか。決算を組む前の設計が、そのまま算定結果に表れます。
鯵坂税理士事務所では、社会福祉法人の社会福祉充実残額の算定と、充実計画の策定を支援しています。控除対象財産の判定から、法第55条の2第5項に基づく意見聴取まで対応します。お気軽にご相談ください。
この記事で引用した法令・資料
社会福祉法人の経理でお困りですか?
記帳・給与計算・振込・決算に加えて、理事会や評議員会の議案書、監事監査、指導監査への対応まで。初回相談は無料です。