鯵坂税理士事務所社福経理
労務

社会福祉法人の勤怠管理|打刻は労働時間ではない理由と始業前の扱い

鯵坂 健太郎鯵坂税理士事務所 代表税理士
税理士。社会福祉法人の監事・理事を務め、保育園を経営。

社会福祉法人や保育・介護の現場で、勤怠管理システムを導入したあとに必ず起きる問題があります。始業時刻のずっと前に出勤打刻をして待っている職員をどう扱うか、という問題です。

結論から書きます。打刻は、労働時間ではありません。厚生労働省のガイドラインは、タイムカード等の記録を「基礎として確認し、適正に記録すること」と定めており、打刻をそのまま労働時間とせよとは言っていません。

ただし「だから払わなくてよい」という話でもありません。この記事では、労働時間の定義から、打刻の位置づけ、出勤簿の記録義務、残業の申請制の落とし穴、勤怠ソフトの設定ミスまでを、条文と通達に沿って整理します。

社会福祉法人の勤怠管理でまず押さえるべき5点

  • 労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」であり、就業規則や打刻記録の定めのいかんによらず客観的に定まる
  • 打刻は労働時間そのものではなく、労働時間を確認するための基礎資料である
  • 出勤簿にハンコを押す運用は、労働日ごとの始業・終業時刻を記録していない点で問題がある
  • 残業を申請制にすること自体は適法だが、申告を阻害する措置を講じることは禁じられている
  • 管理監督者(園長・施設長)にも、労働時間の状況を把握する義務がある

根拠となるのは、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日付け基発0120第3号)です。以下、順に見ていきます。

労働時間とは何か|使用者の指揮命令下に置かれている時間

ガイドラインの「3 労働時間の考え方」は、労働時間を次のように定義しています。

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。

そして、次の一文が判断のすべてを決めます。

なお、労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであること。

「定めのいかんによらず」「客観的に定まる」。就業規則にどう書いても、打刻機に何時と記録されても、それだけでは労働時間は決まりません。

なお、ガイドラインは労働時間として扱わなければならない時間として、次の3つを明示しています。

類型内容
準備行為・後始末使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や、業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
手待時間使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間
研修・教育訓練参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

保育の現場でいえば、指示された朝の清掃や、電話番として待機している時間は、労働時間になります。

打刻データの正しい位置づけ(労働時間の基礎資料)

ガイドラインの「4(2) 始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法」は、記録の方法を2つに限定しています。

使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。 ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。 イ タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。

「基礎として確認し、適正に記録する」とあります。「そのまま労働時間とする」とは書かれていません。

誤解正しい理解
打刻した時刻が労働時間の開始打刻は労働時間を確認するための基礎資料。実態と照合して記録する
打刻していない時間は労働時間ではない打刻が8時50分でも、8時30分から準備をしていたなら8時30分から労働時間
早く打刻すれば残業代が増える指揮命令下になければ、打刻が早くても労働時間ではない

打刻を丸のみにすると、早く打刻した職員ほど得をする仕組みになります。逆に打刻だけを絶対視すると、実際に働いていた時間が切り捨てられます。どちらも実態と乖離します。

出勤簿のハンコ運用が労働基準法第108条に抵触する理由

「昔からのやり方で、出勤簿にハンコを押しています」という運用は、福祉の現場に多く残っています。しかしこれは、打刻の丸のみより問題が大きい運用です。

ガイドラインの「4(1)」は、こう定めています。

使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。

労働日ごとの始業時刻と終業時刻を記録しなければなりません。出勤簿のハンコでは、その日に出勤した事実しか残らず、何時から何時まで働いたのかが記録されません。

これは労働基準法第108条にもつながります。

使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。

ガイドラインを発出した通達(基発0120第3号)の本文は、この点を次のように解説しています。

労働基準法第108条においては、賃金台帳の調製に係る義務を使用者に課し、この賃金台帳の記入事項については労働基準法施行規則第54条並びに第55条に規定する様式第20号及び第21号に、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数が掲げられていることを改めて示したものであること。 また、賃金台帳にこれらの事項を記入していない場合や、故意に虚偽の労働時間数を記入した場合は、同法第120条に基づき、30万円以下の罰金に処されることを示したものであること。

始業・終業時刻を記録していなければ、賃金台帳に労働時間数を書くことができません。

また、労働時間に関する記録(出勤簿、タイムカード等の労働時間の記録、残業命令書及びその報告書等)は、労働基準法第109条の「その他労働関係に関する重要な書類」に該当し、3年間の保存義務があります。

始業前に出勤している時間は労働時間か|判断基準

ガイドラインの「4(3)エ」は、この問題に正面から答えています。

自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。 その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。

「事業場内にいる時間」と「労働時間」は違います。理由を尋ねてよい。ただし、その報告が実態と合っているかを確認する義務があります。

保育・介護の現場に当てはめると、次のように整理できます。

始業前の行動労働時間か理由
休憩スペースでコーヒーを飲んでいる×(原則)指揮命令下になく、業務にも従事していない
かかってきた電話に出る業務に従事している
早く登園した子どもを見る業務に従事している
連絡帳を読む・書く業務に従事している
他の職員が始めた開所準備を手伝う「余儀なくされていた」と評価されうる
業務上義務づけられた研修の受講ガイドライン3のウに該当
業務と無関係の私的な学習×指揮命令下にない

早く出勤していること自体は問題ではありません。問題は、早く来た職員が働き始めてしまう環境です。電話が鳴れば取り、連絡帳が積んであれば読み始める。誰も指示していなくても「余儀なくされていた」と評価されれば、労働時間になります。

残業の申請制と「申告を阻害する措置」の禁止

早出残業と残業を申請制にし、承認されたものだけを労働時間とする。この運用自体は適法です。しかしガイドラインは、この運用にはっきりと制限を課しています。「4(3)オ」です。

自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。 また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。 さらに、労働基準法の定める法定労働時間や時間外労働に関する労使協定(いわゆる36協定)により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること。

「阻害する措置を講じてはならない」。努力目標ではありません。

さらに、このガイドラインを発出した通達(基発0120第3号)の本文は、阻害する措置の具体例を挙げています。

ガイドラインの4(3)オについては、労働時間の適正な把握を阻害する措置としては、ガイドラインで示したもののほか、例えば、職場単位毎の割増賃金に係る予算枠や時間外労働の目安時間が設定されている場合において、当該時間を超える時間外労働を行った際に賞与を減額する等不利益な取扱いをしているものがあること。

つまり、こう整理できます。

措置適否
早出残業・残業を申請制にする
申請できる時間外労働の時間数に上限を設け、超える申告を認めない×(禁止)
部署ごとの残業予算枠を超えたら賞与を減額する×(不利益取扱い)
36協定の上限を超えて働いているのに、記録上は守っているように扱う×
残業削減の社内通達を出す申告を阻害する要因になっていないか確認し、なっていれば改善措置を講じる

申請制そのものは正しい。しかし、申請しづらい状況を作れば、法が禁じる「阻害する措置」に接近します。規程に書かれていなくても、運用として申告が抑制されていれば同じことです。

申請制を入れたら、乖離を確認する

ガイドラインの「4(3)ウ」は、申請制を採用した場合の確認義務を定めています。

自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。 特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。

打刻データは、まさにこの「事業場内にいた時間の分かるデータ」です。打刻を労働時間としない代わりに、申請された時間との乖離を監視する道具として使う。これがガイドラインの想定する運用です。

勤怠ソフトの設定ミスで全職員の賃金が過少になる例

勤怠管理システムを導入しても、設定を検算しなければ、誤りは発見されません。

実務でみられる誤りの例

フレックスタイム制を採用している法人で、残業代が支払われている月に、同時に「不足時間」の控除も行われている例がありました。

原因は勤怠ソフトの設定でした。月間の所定労働時間の総枠を「その月の平日日数 × 8時間」で計算する一方、時間外労働の判定に使う法定労働時間の総枠は「暦日数 ÷ 7 × 40時間」で計算していました。平日の多い月には前者が後者を上回り、その差が「不足時間」として控除されていたのです。

これは特定の職員の勤務の問題ではありません。カレンダーだけで決まる、全職員に共通する歪みです。

賃金の一部を支払っていないことになるため、労働基準法第24条に抵触します。

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

全額払いの原則です。過大に控除していた場合は、原則としてさかのぼって是正し、追給する必要があります。対象月・対象者・追給額の一覧化から始まります。

勤怠ソフトを導入したこと自体は、労働時間を適正に把握したことを意味しません。

変形労働時間制・シフト勤務の就業ルール設計

福祉の現場は、勤怠ソフトが標準で想定する勤務形態とは異なります。

  • 早番・遅番のシフト勤務
  • 1か月単位の変形労働時間制
  • 正規職員とパート職員で異なる就業ルール
  • 土曜のみ短時間勤務、祝日の並びで動く振替休日

シフト表をCSVでインポートしようとして「就業ルールに登録されている勤務パターンと一致しません」というエラーが出ることがあります。勤怠ソフトが、就業ルールに登録済みの勤務パターンとの一致を内部で検証しているためです。CSVの側だけでは完結しません。

勤怠ソフトの導入は、就業ルールの設計です。データを流し込む作業ではありません。ここを軽視すると、毎月エラー処理に追われることになります。

なお、シフト表のどこまでを所定労働時間とし、どこからを時間外労働とするかは、設計段階で決めておく必要があります。たとえば「施設の終業は20時だが、シフトは18時30分までとし、以降は残業として申請する」といった線引きです。

管理監督者(園長・施設長)の労働時間把握義務

「施設長は管理監督者だから、労働時間の管理は不要」という理解は、半分だけ正解です。

ガイドラインの「2 適用の範囲」を読みます。

本ガイドラインに基づき使用者が労働時間の適正な把握を行うべき対象労働者は、労働基準法第41条に定める者及びみなし労働時間制が適用される労働者(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る。)を除く全ての者であること。 なお、本ガイドラインが適用されない労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があること。

管理監督者はガイドラインの対象から外れますが、「適正な労働時間管理を行う責務」は残ります。

さらに、労働安全衛生法第66条の8の3が、明確な義務を課しています。

事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。

労働時間の状況の把握義務は、管理監督者にも及びます。割増賃金を支払うためではなく、長時間労働者への面接指導を実施し、健康を確保するためです。理事長が園長を兼務している法人では、この人の勤務時間が誰にも把握されていないことが少なくありません。

管理監督者でも、深夜割増賃金は支払う必要があります

管理監督者の適用除外の範囲は、労働基準法第41条に定められています。

この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。 二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

適用が除外されるのは「労働時間、休憩及び休日に関する規定」です。深夜業に関する規定は、この適用除外に含まれていません。したがって、管理監督者が深夜(原則として午後10時から午前5時まで)に労働した場合、深夜割増賃金の支払義務は残ります。

なお、社会福祉法人の理事長が施設長を兼ねている場合、役員としての職務に対する報酬(役員給与)と、労働者としての施設長の職務に対する賃金は、性質が異なります。役員としての職務には労働時間の概念がありませんが、労働者として施設長の職務に従事する部分については、上記の労働時間の状況の把握義務と深夜割増賃金の取扱いが及びます。

社会福祉法人の勤怠管理チェックリスト

  • 打刻を「労働時間そのもの」ではなく「乖離を確認するためのデータ」として位置づけ、職員に説明している
  • 労働日ごとの始業時刻・終業時刻を記録している(出勤簿へのハンコのみになっていない)
  • 賃金台帳に、労働日数・労働時間数・時間外労働時間数・深夜労働時間数を記入している
  • 早出残業・残業を申請制とし、申請された時間と打刻データの乖離を毎月確認している
  • 残業の申請を抑制する運用(予算枠、目安時間、賞与への反映)になっていないか点検している
  • 勤怠ソフトの所定労働時間の総枠と法定労働時間の総枠の計算式を検算している
  • 変形労働時間制・シフト勤務に対応した就業ルールを、勤怠ソフト側に登録している
  • 管理監督者(園長・施設長・理事長兼務者)の労働時間の状況を把握している
  • 労働時間に関する記録を3年間保存している

なお、人事・給与に関する事項は、所轄庁の指導監査でも確認の対象になります。

まとめ

社会福祉法人・保育園・介護事業所の勤怠管理について、要点を整理します。

  • 労働時間は「使用者の指揮命令下に置かれている時間」であり、就業規則や記録の定めによらず客観的に定まる
  • 打刻はタイムカード等の客観的記録として、労働時間を確認するための基礎資料である
  • 出勤簿へのハンコのみでは、労働日ごとの始業・終業時刻を記録したことにならない
  • 始業前に施設内にいる時間は、指揮命令下にあるかどうかで個別に判断する。電話対応や開所準備を始めた時点で労働時間になる
  • 残業の申請制は適法だが、申告を阻害する措置(申告時間数の上限設定、予算枠超過時の賞与減額等)は禁止されている
  • 申請制を採用した場合、申告時間と打刻データの乖離を確認し、著しい乖離があれば実態調査と補正を行う義務がある
  • 勤怠ソフトの設定ミスで全職員の賃金が過少になることがある。所定労働時間の総枠と法定労働時間の総枠の計算式を検算する
  • 管理監督者にも、労働安全衛生法第66条の8の3に基づく労働時間の状況の把握義務がある

制度の設計と、現場の運用は、両方を同時に見なければ機能しません。打刻を丸のみにすれば早く来た職員が得をし、申告を締めつければ申請しない職員が損をします。どちらの場合も、真面目な職員から順に不利益を被ります。


鯵坂税理士事務所では、社会福祉法人・保育園・介護事業所の給与計算と勤怠管理を支援しています。勤怠ソフトの就業ルール設計、設定の検算、処遇改善加算に対応した給与計算まで対応します。お気軽にご相談ください。

この記事で引用した法令・通達

  • 労働基準法(昭和22年法律第49号)第24条、第32条、第108条、第109条、第120条 — e-Gov法令検索
  • 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第66条の8の3 — e-Gov法令検索
  • 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン及びその発出通達(平成29年1月20日付け基発0120第3号) — 厚生労働省

社会福祉法人の経理でお困りですか?

記帳・給与計算・振込・決算に加えて、理事会や評議員会の議案書、監事監査、指導監査への対応まで。初回相談は無料です。

無料相談はこちら →TEL 050-3612-8048平日 9:00–17:00
関連記事
決算

社会福祉充実残額とは|算定方法と、生じる法人が7.9%の理由

機関運営

社会福祉法人の理事会と評議員会の違い|招集・決議要件・役員改選

監査

社会福祉法人の指導監査|指摘の3種類・監査周期・よくある指摘事項